東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1336号 判決 1956年4月17日
事実
控訴人(日英自動車興業株式会社)は、本件手形が訴外株式会社大山製作所の依頼により他に譲渡しないとの約束で振り出されたものであり、被控訴人はこの事情を知悉しながら本件手形を右訴外会社から譲り受けたのであるから、控訴人は本件手形につき被控訴人に対し責任はないと述べ、被控訴人(株式会社斎藤玉次商店)は、控訴人の右主張事実を否認すると述べた。
理由
証拠によれば、控訴会社は訴外株式会社大山製作所とは従前なんらの取引も貸借関係もなく、また同訴外会社の営業、資産内容についてもなんらの知職がなかつたこと、本件手形は控訴会社代表者石井種次が予て代金回収のため斡旋を受け懇意になつていた右訴外会社員白尾晃から訴外会社の経理の関係上みせ手形として利用したいとの依頼により他に譲渡しないとの約束で振り出されたものであることが認められる。
控訴人は、被控訴人が本件手形がみせ手形として振り出されたとの前記事情を知悉しながらこれを右訴外会社から譲り受けたと主張するが、訴外岩城隆が右訴外会社員石川某から、本件手形が商取引により取得したものであるとしてその割引の斡旋を依頼され、同訴外人はその旨を信じ、更に訴外斎藤福太郎にこれが割引を依頼し、同訴外人がその取締役をしている被控訴人に割引させたこと、被控訴人は本件手形を取得した当時本件手形が前記の如くみせ手形として振り出されたとの事情は知らなかつたこと、被控訴人が金三十三万九千九百九十五円の対価を得て本件手形を右佐倉栄一に譲渡したことが認められるから、控訴人の右主張は理由がなく、被控訴人の本訴請求は相当であるとして控訴を棄却した。